故人が賃貸物件に住んでいた場合の遺品整理の注意点
人が亡くなったとき、亡くなった方との思い出を残したり、財産を受け継いだりするために遺族の方は遺品整理を行います。亡くなった方が持ち家に住んでいた場合は、時間を気にしないで、遺品整理に取りかかれるでしょう。
しかし、賃貸物件に住んでいた場合、その家の持ち主は他人です。そのため、気持ちの整理がつくまで待ってくれない可能性もあります。何も決めずにすぐ遺品整理を始めてしまうと、不都合な事態になりかねません。そうならないためにも、賃貸物件で遺品整理をするときの注意点をあらかじめ把握しておきましょう。
遺品整理や賃貸物件の解約時期
亡くなった親族が賃貸物件に住んでいた場合、遺族は何をすればいいのでしょうか?
相続放棄したい場合は注意が必要
一般的には、「賃貸物件の解約手続き」「遺品整理」などをイメージする方が多いかもしれません。
しかし、それらに取り掛かると故人の財産の相続が確定してしまう可能性があるので注意が必要です。「故人に多額の借金がある」「故人との関係が悪かった」などの理由から相続を放棄したいと考える方もいるでしょう。
相続放棄には、相続財産に手を付けないという条件があります。相続財産とは、故人にまつわる一切の権利義務のことです。不動産や有価証券、預貯金などの他に、故人の権利義務まですべてを含むので賃借権や負債なども該当します。
そのため、遺品整理で相続財産を処分した場合だけでなく、解約手続きでも相続が確定してしまう可能性があるのです。「相続か」「放棄か」を決断するには故人の財産額を知ることが重要になります。財産調査を行い、「プラスの財産が多いのか」「マイナスの財産が多いのか」を把握しましょう。
相続・放棄の決断は慎重にしましょう
「相続財産がプラスになりそうなら相続手続きを検討」「借金が多額にあるような場合は相続放棄を検討」という方が多い傾向です。
ただ、賃貸物件の場合は、そこで決断してしまうのはまだ早いでしょう。相続をすると故人の賃借人としての権利も引き継ぐことになります。そのため、未納家賃や違約金、原状回復費用、損害賠償請求なども支払う義務が発生するのです。
賃貸物件にある家財道具の撤去
持ち家と賃貸物件で違う点は、賃貸物件は借り物だということです。家主は早めに退去してもらえるよう遺族に伝えてくることが考えられます。
賃貸物件が遠方にある場合
相続をする場合は、すぐに遺品整理を始めても問題ありません。
しかし、「故人の住まいが大阪で相続人が東京」といった遠方の場合は時間が取れない可能性もあるでしょう。その場合は、家主に相談してみることもひとつの方法です。すべての家財道具を撤去したら、鍵を返還して家主に部屋を明け渡します。
相続放棄する場合
あわてて遺品整理をすると問題が起こる可能性があるのは相続放棄をする場合です。遺品整理した後で相続放棄の申し立てをすると、「処分した物」「処分にかかった費用」などを細かく聞かれるケースがあります。誤って相続財産を処分していたことが判明すると、相続が確定したとみなされて相続放棄が認められません。
承認された後は、相続財産は他の相続人、あるいは裁判所に選任してもらう相続財産管理人に引き継ぐので、相続財産を処分してしまう心配はなくなります。そのため、相続放棄が認められてから遺品整理を行うほうが安全です。残りの遺品は処分するなり、形見分けするなりしてようやく家財道具が撤去されます。
承認前でも家財道具の撤去が認められるケースもある
しかし、この場合は退去するまでに時間がかかってしまうかもしれません。その場合は、形見分けと相続財産の保管だけを行うことも方法のひとつです。相続放棄が承認される前でも、財産価値のない物を常識の範囲内で形見分けすることは認められています。
ただし、常識の範囲内というのはあいまいなので、遺品を持ち帰りすぎたために相続放棄が認められなかったケースもあるので注意が必要です。あくまで故人との思い出を残すための形見分けにとどめましょう。
他の家財道具に関しては、明らかに財産価値をある物はもちろん、一見価値がないように見える物もとりあえず保管しておくのが無難です。倉庫を借りて預けておくなど、相続財産管理人などに引き継ぐまで保管しておきます。後は、家主のほうから賃貸契約の解約をしてもらえば部屋を明け渡すことができるでしょう。
賃貸物件の原状回復義務
原状回復義務とは、賃借物を原状に回復して賃貸人返還する義務のことです。賃貸物件においては入居した当初の状態に戻すことを指します。家財道具の撤去も原状回復の一環ですが、掃除をしたり、入居者の過失で破損した箇所を修繕したりといったことも必要です。
亡くなった場所が室外の場合
亡くなった場所が室内でなければ、通常は一般的なハウスクリーニングだけで済みます。ハウスクリーニングを行ってくれる遺品整理業者もいるので、遺品整理業者を選ぶときはハウスクリーニングのことも考慮して検討すると良いでしょう。
亡くなった場所が室内の場合
室内で亡くなった場合は特殊清掃を依頼します。遺体による悪臭や汚れを処理するのが特殊清掃の役割です。その際、汚れや臭いが取れず使用不可能になった家財道具はすべて廃棄され、きれいになった遺品だけが残ります。
遺品整理と特殊清掃の両方を請け負ってくれる業者も多いので、そのまま遺品整理を任せることも可能です。ハウスクリーニングや特殊清掃によって室内をきれいにし、家財道具を運び出せば原状回復は完了になります。
備え付け設備の扱いには注意しましょう
遺品整理の際に備え付けの設備を持ち出したり処分したりしないように気を付けましょう。備え付けの設備がきちんとあることも原状回復の条件となります。たとえ使えそうにない物でも、家主の許可を得ずに処分してしまうとトラブルにつながる可能性があります。ちなみに、相続放棄をした場合は、賃借権も受け継いでいないので遺族に原状回復義務はありません。
ただし、備え付けの設備を処分できないことは相続放棄でも同じなので注意しましょう。