生活保護の受給者が亡くなった場合に遺品整理はどうする?
厚生労働省が公開している平成29年5月の資料「生活保護制度の現状について」によれば、同年2月時点での生活保護受給者の数は、約214万人とされています。
・参考 「生活保護制度の現状について」
同資料によると、受給者全体の45.5%が65歳以上の高齢者となっており、そうした方が亡くなった場合の遺品整理が問題となってきます。
身近に親族などもおらず、近所付き合いも乏しければ、孤独死するケースも珍しくありません。
今回は、生活保護受給者が亡くなったら誰がどのように遺品整理をするのか、費用負担者は誰なのかといった点について解説していきます。
1.生活保護受給者の遺品整理を行うのは誰か
(1)生活保護制度の目的
まず前提として、生活保護制度の目的は、各人の困窮の程度に応じた保護を行うことです。
これは憲法第25条1項で定められている、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(生存権)の実現に加え、自立支援を行うためのものです。
(2)役所は遺品整理に関しての面倒を見てくれない?
生活保護制度自体が生存権の理念に基づくものなので、受給者が亡くなった時点で役所からの保護やサポートは停止してしまいます。
ただし、ご遺体については、家族不存在や引取拒否の場合、役場にて火葬の後に合祀されるので、放置されるということはありません。
基本的に、遺品整理や特殊清掃に関しては、役所は面倒を見てくれないのです。
(3)基本的には親族が遺品整理を対応
役所の管轄外となる以上、遺品整理を行うのは原則として親族ということになります。
しかし、面倒を見てくれる親族が身近にいないからこそ、生活保護を受ける状況に陥っているわけであり、中には天涯孤独というケースもあるでしょう。
その場合、対応するのは以下のような者となります。
・(いれば)遠方の親族
・(マンションなどの場合)連帯保証人
・管理会社ないし大家
2.財産の相続と遺品整理の費用負担
(1)相続手続と相続放棄
生活保護の受給者と相続との関係は、2通り考えられます。
生活保護受給者の財産を親族が相続する場合と、生活保護受給者が親族の財産を相続する場合です。
①生活保護受給者の財産を親族が相続する場合
通常の相続手続に従うこととなります。
ただ、近時は相続放棄をする親族も少なくありません。
これは連帯保証人が高齢などで亡くなっていた場合、未納家賃などの債務が残っていることもあるためです。
相続した場合、原状回復(家財道具などの撤去や清掃)を管理会社ないし大家から請求されることとなります。
②親族の財産を生活保護受給者が相続する場合
この場合も、通常の相続手続に従えば済みます。
ただ、相続する財産の額によっては、生活保護が打ち切りになる可能性もあります。
というのは、生活保護を受給するための要件として、以下が存在するからです。
・生活に困窮する者であること
・世帯員全員が資産や能力その他あらゆるものを、最低限度の生活維持のために活用することを前提とすること
・それでも困窮しているが、生活を援助してくれる扶養義務者や扶助者がいないこと
遺産相続をした場合、生活維持のために活用できる財産を取得したため保護が不要となった、と解釈され、受給停止ないし廃止となるのです。
(2)遺品整理費用の負担者は?
生活保護費は受給者死亡時点で打ち切られます。
したがって、遺品整理に要した費用を生活保護費から捻出することはできません。
原則としては、親族・連帯保証人・管理会社や大家のいずれかが負担することになります。
3.生活保護受給者の遺品整理をする際の注意点
(1)葬儀と遺品整理
特に親族が生活保護受給者の葬儀を上げたり遺品整理をしたりする場合、費用に注意する必要があります。
高額な葬儀をあげたり業者への高額な支払いをしたりすると、生活保護費を不当に受給していたと見なされ、役所から返還請求を受けることもあるためです。
費用の高過ぎない業者を選ぶためには、きちんと相見積もりを取るのが大事です。
もちろん値段だけで選ぶのも良くありませんが、相場よりも高くなるところは避けたほうがいいでしょう。
(2)遺品整理と相続
また、遺品整理として、勝手に財産の処分をしてしまわないように注意しましょう。
財産処分をすると、相続財産を単純承認したと見なされて、相続放棄ができなくなるからです。
財産を精査した結果、負債のほうが多いことが判明した場合、思わぬ損失を被ることにもなりかねません。
財産の処分は、しっかりと調査を行った後にしましょう。
(3)不明な点がある場合には
生活保護受給者が亡くなって、どうしたらいいかわからない場合は、役所の窓口や、生活保護の担当をしているケースワーカーに相談するという方法があります。
また、遺品整理に関しては、専門の遺品整理業者に問い合わせをしてみるのも手です。
わからないままに遺品整理や手続を進めようとすると、トラブルが生じかねないため、お気をつけください。