遺品整理から見るセルフネグレクトの問題とは

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遺品整理を行うにあたっては、しばしば家が物で散乱していることがあります。
いわゆる「ゴミ屋敷化」という状態です。

これは亡くなった方が単にルーズな性格だったとか、物を片付けるスペースがなかったとかいうのではなく、「セルフネグレクト」によるものである可能性もあります。

社会の高齢化や地域の繋がりの断絶は、人々の孤独をもたらします。
内閣府による2011年の調査では、セルフネグレクト状態にある高齢者は1万人以上と推計されており、現在ではさらに増加している可能性もあります。

※参考 内閣府経済社会総合研究所「セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査―幸福度の視点から」

 

ここでは、孤独死の問題とも関わるセルフネグレクトと、その対処法について解説していきます。

セルフネグレクトとは何か

(1)自分自身への無関心化

セルフネグレクトとは、自分に対して関心がなくなり、放置すること(自己放任)だと説明されます。

年齢に関わりなく、若者にも老人にも見受けられる心理的状態です。

自分自身に対して無関心になると、あらゆる事柄について投げやりになり、人間関係も希薄になっていきます。

食べるのが面倒になって食欲が失われるほか、入浴も煩わしくなり清潔感もなくなるケースが多く見受けられます。

片付けも行われなくなるため、家の中が散らかってゆくのです。

厳密には鬱そのものではありませんが、症状としては重なる部分も多く、密接な関わりを有します。

(2)セルフネグレクトの原因

セルフネグレクトとなる原因は様々ですが、主なものとしては「孤独感」が挙げられます。

たとえば妻や夫との死別、学校や職場などでの人間関係が上手くいっていない、病気がちで他者との関わりが少ないといった理由で、人は孤独となっていくのです。

他にも、虐待を受けていたり突然の被災だったり、心に大きな傷を負うことがセルフネグレクトに繋がる場合もあります。

さらに、経済的な困窮から不安、行き詰まり感を覚え、気力が失われることも珍しくありません。

これらは誰にでも起こり得ることですから、単に「自己責任」のみでは片付けられない問題といえるでしょう。

(3)セルフネグレクトによってもたらされる結果

セルフネグレクトの恐ろしさは、孤独によって生じた自己への無関心化が、さらなる孤独をもたらすという点にあります。

コミュニケーション能力が減衰し、栄養不足や衛生環境の悪化から体調も崩しやすくなってしまうほか、認知症のリスクも高まります。

他者との関わりが途絶えた人は、そのまま孤独死へと向かってしまうおそれがあるのです。

遺品整理から見るセルフネグレクト問題の難しさ

(1)発見のしにくさ

セルフネグレクトの問題の難しさは、第一に発見のしにくさにあります。
本人が存命のうちに周囲が気付ければまだいいですが、亡くなってしまい、遺品整理をする時点でようやく、セルフネグレクト状態にあったと判明するケースもあるのです。

セルフネグレクトとなる人自体が元々孤独なことが多いですし、そうなると「この人はセルフネグレクト状態にある」と気づけるような人が周囲に存在しません。

(2)介入への拒絶

また、セルフネグレクト状態では、他者の介入を頑なに拒むこともあります。
本人の心の中には諦めや怒りの感情があるため、「今更手を差し伸べられても遅い」「自分は無価値な存在だから放っておいてほしい」といった思いから、反発や拒絶をするのです。

このためサポートを行うのが困難であり、散らかった部屋を片付けるなどの福祉整理も行えない状況となってしまいます。

(3)原因の多様性

さらに、人によってセルフネグレクト状態に陥る原因は様々であることから、画一的な対処がしにくいという問題もあります。
病気を切っ掛けにセルフネグレクト状態となった人と虐待が原因だという人、被災した人とでは、それぞれ対応も異なるでしょう。
個々人に応じた丁寧なフォローが必要でありながら、発見のしにくさや介入への拒絶によって、対応が困難となっているのです。

セルフネグレクトへの対処法

(1)コミュニケーションを取る

セルフネグレクト状態に陥る原因として大きなものが孤独感である以上、対処方法として重要なのは、周囲の人間との関わりです。
周りの人が気づき、積極的にコミュニケーションを取ることが重要です。

簡単な会話からでも始めて、やり取りを広げていくことで、本人に活動への意欲が湧くこともあります。
家族が身近にいない場合、近隣住民との関わりも求められるでしょう。

(2)刺激と習慣

走り出した自転車が倒れないように、精神的な活動にも勢いや刺激は大切です。
掃除や洗濯、食事などの習慣をきちんとこなすことで活気が生まれ、心に負ったダメージも和らいでいくのです。

人は、何もしないでいると気分が塞ぎがちです。
規則正しい生活を送り、運動や睡眠の時間を適切に確保することで、精神状態も好転してゆきます。

(3)自治体によるサポートも

自治体によっては、セルフネグレクトに関する相談窓口を設けていたり、医師との連携を行っていたりするところもあります。
場合によっては、支援施設への入居なども検討する余地があるでしょう。

セルフネグレクト状態にある人を助けようとして、自分まで心身のバランスを崩してしまっては意味がありません。
公的サポートを含め、複数人で協力しあってフォローすることが大事です。

まとめ

セルフネグレクト状態にある人は今や数万人とも言われており、社会的問題といえます。
しかし、その性質上発見や対処が難しく、容易に解決はできません。
本人が亡くなり、遺品整理の時になって初めて気づくのではなく、もっと早い段階でコミュニケーションを取り、対処していくことが求められます。